統合報告書2024
COO メッセージ
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2030年に目指す姿
2024年5月、新中期経営計画(以下、新中計)の発表と同時に、2030年に目指す姿として「GLOBAL NEOFINANCE COMPANY〜金融をコアとしたグローバルな総合生活サービスグループ〜」を掲げました。これには、セゾングループを率いた故・堤清二氏が提唱されていた「生活総合産業」という思想を引き継いでいますが、ここまでデジタルが浸透していなかった当時と今とでは、消費者の嗜好もビジネスのあり方も大きく異なります。その中で私たちは、ファイナンス領域にとどまることなく緩やかなパートナーシップで「セゾン・パートナー経済圏」を構築し、お客様の困りごとを解決するツールをご提案していきたいと考えます。ただ、そのツールの広がりはどの分野も、最終的に「決済」という金融機能でつながります。そこは当社が長年培ったノウハウに加え、決済を取り巻く幅広い金融機能の強化を通じて金融・決済の専門集団としての能力を高め、ファイナンスカンパニーとして提供できるサービスの振り幅を広げていきます。直近ではスルガ銀行㈱との提携で銀行機能を取り入れたほか、大和証券㈱とは証券機能、ソニー生命保険㈱とはライフプランに関するコンサルティング機能と、個別機能面での業務提携も進めています。また、目指す姿に「グローバル」を冠した背景には、少子高齢化等により日本の経済市場が縮小傾向にある中で、企業の持続的な成長には常に挑戦や変革が必要だという強い想いのほか、世の中の困りごとをグローバルに解決していきたいという想いを後押しする、当社グローバル事業の目覚ましい成長への自信もあります。
中長期で描く事業ポートフォリオ
「GLOBAL NEO FINANCE COMPANY」の事業ポートフォリオについては、社長に就任した2021年、ペイメント:ファイナンス:グローバル:新規事業が「3:3:3:1」となるイメージを持っていました。しかし、昨年の統合レポートで私は、長期目線ではグローバル事業が5割まで拡大するポテンシャルや、関連会社も含めた新規事業の伸長により「3:3:3:3」となる可能性も補足しました。特に最近のグローバル事業の手ごたえを考えると、次回策定する2027年度からの中計期間では、いよいよグローバル事業が「5」になる可能性も高いと感じています。しかしいずれにしても、志向する姿は何か1つの事業が突出する事業ポートフォリオではなく、各事業が切磋琢磨しながら成長し、規模を拡大していくものであることに変わりありません。
新規事業に関しては、約3,500万人の顧客基盤に対して、お客様の困りごとを解決するのに最適な商品・サービスをワンストップでご提案できる体制を今後も強化していきます。業務提携のパートナーや拡充させる領域の検討、または内製化で進めていく事業など、新規事業の可能性は引き続きさまざまな選択肢を探りながら進めていきたいと思います。
前中期経営計画は1年前倒しで
事業利益目標を達成
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事業利益522億円となった2018年度以降、新型コロナウイルス感染症の影響で事業の成長確度が鈍化し、2021年度の事業利益は523億円で着地となりました。そんな中、2022年度からスタートした前中計では、最終年度(2024年度)の事業利益目標700億円を掲げたものの、かなりチャレンジングだと捉えていました。しかし、ニューノーマルに合わせた事業展開を進めながら構造改革を徹底して進め、全社員の頑張りもあって、コロナ禍からの経済回復の流れの中で、2023年度に事業利益719億円で着地、1年前倒しで目標を達成できました。
構造改革によって筋肉質な体質に移行できたことに加え、グループ各社においてもビジネスモデルを変革して収益貢献を果たしてくれたことが利益伸長に大きく寄与しており、国内事業は「稼ぐ力」がしっかりとついてきたと評価しています。2021年3月に私が社長に就任した際には、改革がしっかり遂行できなければ当社は衰退するかもしれないという危機感を込めたメッセージを発信し、全国に足を運び多くの社員との対話にも努めました。改革の必要性に対する理解が浸透し、社員がしっかりと頑張ってくれたその結果が2023年度の業績に結び付いたと評価しています。
新中期経営計画を策定
2024年度からの新中計では、3年後の2026年度に事業利益1,000億円の達成を目標としています。同時に、ROEを9.5%に高め、PBRが1倍を割れている現状を打破していきます。最も大きな要素となるのは、稼ぐ力を引き続き強化していくことです。
新中計では4つの重点テーマとして、①国内事業の徹底的な筋肉質化、②各事業を加速させる銀行機能の活用と金融機能の増強、③インドを起点としたユニークなグローバル展開の進化と国内・海外双方向の融合、④事業戦略と連動した社員の成長と経営基盤の強化、を掲げました。
グローバル展開については、当社がグローバル事業を始めてから約10年が経ち、ようやく事業基盤が整ってきました。特にインド事業は、勢いのある同国の成長を取り込んで目覚ましい伸びを見せています。この国を起点にグローバルに水平展開を進めていくことが、次の当社の成長につながると確信しています。2023年度にはメキシコとブラジルにも進出していますが、アフリカも有望な市場の1つとして市場調査を進めています。これから先、さらにグローバル事業を拡大していく上では、人口が多く、経済成長が望め、なおかつデジタル化がさらに進む市場がターゲットになっていきます。ASEAN、インド、南米の3リージョンに拠点を置きながら、新規エリアへも進出することで、さらなる事業成長を目指していきたいと思います。
一方で、現状の当社の事業構造を見ると、2023年度の事業利益719億円の約9割を占めているのは国内事業です。将来的にグローバルでの成長を見据える上でも、国内で安定した収益基盤を維持し続けることは不可欠であり、国内事業をしっかりと強化・成長させながら、2030年とその先の未来を見据えてグローバルに成長投資を振り向けていきます。
国内の事業環境を見ると、金融機関系や通信キャリア系等の競合他社も経済圏構想を打ち立てています。しかし、当社が競合他社と一線を画しているのは、ポイントを軸にした顧客囲い込み戦略を推進していない点です。ポイントを軸に顧客獲得コストを投じても、バーゲンハンターとも呼ばれるポイント重視の消費者はあまり粘着性がありません。少子高齢化で縮小市場にある日本では、粘着性の高いお客様のロイヤリティを高めていく施策が有効だと考えており、そうしたお客様の困りごとを解決できる、緩やかな経済圏を拡張していきたいと考えます。幸い、セゾングループに対しては「なんとなく好き」というイメージを持ってくださっている方が多く、これは非常に幸運です。少しスタイリッシュで先進的だ、と想起されるようなブランドであり続けられるよう、時代に流されず着実にブランド戦略を進めていきたいと思います。
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リスク認識
国内では今後もキャッシュレス化が進んでいくと見ており、市場規模に関して経営上のリスクはさほど認識していませんが、ファイナンスもペイメントも、しっかりと利ザヤを確保できるようコントロールしていくことが重要になります。一方で、個人情報を扱う事業者として、巧妙化するサイバー攻撃は死活問題にもなりかねないとの認識のもと、サイバーセキュリティの強化を進めています。
海外市場では、特にグローバルサウスの経済成長に不安はないものの、金利環境や為替、法規制の変化等は成長阻害要因になりうるため、常にリスクとして想定しています。
インドのKisetsu Saison Finance (India) Pvt. Ltd.に関しては、㈱みずほ銀行に出資いただき、将来的な規制動向や監査で指摘されうる事項等を先回りして対応できるようなグループガバナンス体制を構築しています。メキシコとブラジルはまだその段階にまで来ていませんが、インドでの事例を参照しながら、外部のメンバーも取締役会に入れてガバナンスを高めていきたいと思います。
社員との対話
今、私が精力的に進めているのが、5月に発表した新中計に関する社員との対話です。第1四半期には部長・課長層を中心に10回ほど、約300名に私から新中計の全体概要を説明し、部長・課長からの疑問や各部門の課題についてヒアリングしてきました。7月以降は、グループ各社に対しても同様の対話をしながら、各社に期待したい役割等を依頼しています。下期以降は、係長以下の社員ともできるだけ多くリアルで対話していきます。中計初年度にこうした取り組みをしっかりと行うことがとても大事だと考えています。
今回掲げた数値目標を確実に達成するためには、何よりも稼ぐ力をさらに強化し、2027年度以降の次期中計では、確実にROE10%超に持っていきたいと考えています。
ダイバーシティの息づく企業文化
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複数の事業が成長するにつれて、ダイバーシティの価値観を受け入れる企業文化が自然と息づいてきたように思います。取締役会でも、多様性あるメンバーの視点や知見をしっかりと取り入れ、当社の企業価値向上に役立てています。当社に必要ないのは、異文化を排除するやり方をする人です。さまざまな人材の多様な意見を受け入れ、それを自分の事業や仕事に活かしていく、そうした進め方が不可欠です。
人材戦略
キャリア入社社員だけでなく、長年同じような業務をしてきた人材についても、積極的に配置転換を通じて新しい価値観の中で新たな経験・知見を積んでもらえるような施策を進めます。人材交流や人員配置を通じて、ダイバーシティと専門スキルの両方を兼ね備えた人材を育成していきたいと思います。
また、優秀な人材を確保・定着させていく上では、報酬面の拡充は重要な要素です。前中計では1年前倒しで目標を達成できたため、役員から一般社員まで一律50万円超を決算賞与として還元しました。成果に報いていくこと、そしてパフォーマンスに見合う評価をしていくことはとても重要ですが、同時に、ファイナンスとペイメントでは事業内容が全く異なりますので、事業部ごとの報酬体系編成や、専門人材のための報酬体系の構築は今後の課題と認識しています。
DX人材については、当社はTier1からTier3に分けて定義しており、最もプロフェッショナルなTier1人材は現状150名の人員がいます。エンジニアの気持ちに寄り添ってマネジメントを進める小野CDO兼CTOのもと、辞めた人材がほとんどいない、テック業界では驚くほど高い定着率となっています。DX人材の拡充に向けては、Tier3のデジタル人材を1,000名にしていくことを目標に掲げ、現在400名弱※とかなり地固めができつつあります。中長期的に当社DXの非常に強い戦力になると期待しています。
※2024年7月末時点
ステークホルダーへのメッセージ
前中計では1年前倒しで事業利益目標を達成し、私たちは今、稼ぐ力を含めて、ようやく成長路線に本格的に回帰できると自信を取り戻しています。これまで、基幹システムの問題やコロナ禍等で成長路線に舵を切りづらい時期が続きました。当社のPBRはいまなお1倍を割れています。新中計の数値目標を達成しつつ、早期にPBRを健全な状態に戻したいと思います。IR活動での積極的な情報開示に加え、私自身も機関投資家との対話の機会を増やし、資本市場との認識ギャップが見られるところは精力的に説明していく考えです。
私たちの歴史を振り返ると、上場企業で何年も働いているような人が初めて持てるツールだったクレジットカードを女性や若年層に開放するなど、独自の思想を持ち、事業成長を果たしながら社会に貢献してきた軌跡があります。今、グローバルで私たちが手がけている事業は、これまで日本で行ってきた事業と同じ思想で展開されています。
当社の経済的メリット以上に、進出する各地域の経済発展や、その地域に暮らしている人たちの生活をより良くし、困りごとを解決していく、そうした思いがDNAとして根付いているのです。これからも社会インフラとして、安心・安全に365日24時間稼働し続けるという大切な責任に加え、事業を通じて環境にも社会にも貢献しながらサステナブルな成長を追求していきます。引き続きご期待・応援いただけますようお願い申し上げます。