統合報告書2024
CEO メッセージ

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クレディセゾンが大切にする価値観

私たちを取り巻く国際情勢はますます不透明さを増しています。世界的に覇権争いが激化する中で、依然続くロシア・ウクライナ問題、さらにはパレスチナを巡る情勢など、地政学リスクはこれまでになく高まっています。また、インドをはじめとするグローバルサウスの台頭も目覚ましく、世界は多極化に向かっています。
当社のグループ経営を考える上でも、こうした国際情勢から目を離すことはできませんが、中でも人口が世界一に躍り出て、今後の世界経済でもインドがプレゼンスを高めることは必至です。当社は、2018年にインドに設立したKisetsu Saison Finance (India) Pvt. Ltd(. 以下:Credit Saison India)を中心に、グローバル事業が順調に成長を続けています。多極化する世界で日本企業が存在感を発揮していくには、進出する国・地域の歴史にも造詣を深め、現地の課題や期待に寄り添いながら、新たなビジネスモデルを創出していかなければなりません。

社歴不問の抜擢人事

日本企業のグローバル展開はこれまで、現地企業の資本の過半数を押さえ、日本から社長を派遣する形で、本社の指揮命令系統に従わせるガバナンスが主流でした。多極化する時代で重要なのは、進出先の希望にかなう形で、その地域の経済発展に貢献することであり、出資比率に基づく支配ではありません。Credit Saison Indiaは、1,200名弱※にまで規模を拡大し、銀行口座を持てないアンダーサーブド層へのレンディング(貸付)事業を主軸に急成長を遂げていますが、同社執行チームに日本人は一人もいません。当社はベトナムでも、現地の金融機関がマジョリティの資本を持つ形で、2015年にHD SAISON Finance Co., Ltd.を設立しましたが、現地の優秀な人材が7,500名※に及ぶ社員を束ねており、そこにも日本人は一人も派遣していません。

ブラジルやメキシコも含め、こうしたグローバルのグループ会社で活躍する現地の主要メンバーは、東京・本社で開催するSaison Global Summitに招き、本社社員とはもちろん、グループ全体で人材交流を図る機会を設けています。今年は約150名のグローバル人材が東京に集いましたが、国全体に勢いのあるインドの社員は、こうした場でも活力と熱気にあふれており、日本の社員に大きな刺激を与えてくれました。
グローバル・ ガバナンスを考える上で、最も重要なことは、やはり、誰に任せるのか、現地のCEOをはじめとする執行チームの人選です。会社を変えるのは、いつの時代も人材です。人材の抜擢・登用において、当社では、社歴は不問です。当社本体の取締役会の構成メンバーを見ても、クレディセゾンで生え抜きの社内取締役は水野COO一人です。また社外取締役も多様な専門性を有するユニークな顔ぶれです。世の中が絶えず変わり続ける中で、経営も新しいものに挑戦していく、アクティブな取締役会であることが、ガバナンスの高度化にもつながります。

※2024年6月末時点

実体験とマインドが人を育てる

当社の人材は、バブル崩壊後も成長を追求し、実現してきた成功体験を持っている層がいる一方で、2000年以降に入社した若手社員の多くは、成功体験を持っていません。成功体験には、イノベーションの創出を邪魔しかねないマイナス側面もありますが、これから先、成功体験を実体験として持っていない人たちが幹部になっていくと、いざというときに踏ん張ることができない、そうした弱さがあるのではないかと懸念しています。私は、社員にはどんどん新しいこと、未知の仕事を経験させることが重要だと考えます。自分以外に頼る者がいないような環境に送り込むといったハードトレーニングが人材を成長させます。

サクセスストーリーと聞くと、めげることなくあらゆる困難に耐え、目標を変えずに諦めない、その先に成功が待っている、というのが定番です。しかしそれは、日本が二次産業を発展させてきた、一昔前の時代に必要とされたメンタリティだと私は思います。これからの時代、本当に求められるのはむしろ、ダメだと思ったときに「やめる力」です。やめることで新しい何かに挑戦する時間とエネルギーが生まれます。それを何に使うか自問自答し、決断する勇気とマインドが必要です。イノベーションは現在のやり方を否定することから生まれるのです。

変革の時代における組織・人のあり方

同じ作業を繰り返す単調な仕事は、機械が代わりにやってくれる時代になりました。生成AIの出現はそれをさらに後押しし、やめる勇気どころか、最初からやらなくても済む時代が来つつあります。そうした時代で、人間は何をすべきなのでしょうか。
私は、一人ひとりの好奇心から生まれる「もっと知りたい」という知識欲や夢中になる力が、機械では取って代わることのできない人間の新しいイノベーションを生み出す力の源泉と考えます。私は、「夢中力」の公式と称して、「能力とは集中して努力した時間の2乗に比例する」という仮説を立てています。「あの仕事をしてみたい」と自ら好奇心を持って仕事に臨むと、「働く」が、自ずと「学ぶ」、さらには「遊ぶ」とイコールに近い形になると考えています。
もちろん、その大前提には、働く環境が、一人ひとりの自由で多様な好奇心や価値観を包摂する土壌でなければなりません。イノベーティブな組織には、商品やサービス、仕事のやり方などを創造的に破壊する習慣が根付いています。この創造的破壊は、多様な価値観・考え方を持つ人と人とが交流することから生まれます。
一人ひとりの人材が、自由な意思に基づいて、平等に与えられた時間をどのように使うかを考え、行動して成長につなげていく。創造的破壊により商品・サービス、仕事のやり方は変わろうとも、組織のあり方は変わらず、そうした一人ひとりの多様な価値観を平等に扱い、個々の人材が持つ成長意欲を後押しする。クレディセゾンは、これからも一人ひとりの人材が最大限能力を発揮できる企業であり続けたいと思いますし、同時に、心の面だけでなく、経済的にも、社員一人ひとりの人生が豊かで充実したものになってほしいと願っています。