グローバル事業 挑戦の10年
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グローバル事業の本格始動から今年で約10年。
これまでの振り返りと、新中期経営計画における戦略・目標について教えてください。
グローバル事業が立ち上がった最初の5年はトライ&エラーの繰り返しでした。当時はクレジットカード事業の海外展開を目指していましたが、国によっては銀行ライセンスが必要であり、日本モデルをそのまま持ち込むのは難しいと分かりました。またその頃は本社主導による現地企業との合弁を基本戦略としており、ベトナム・インドネシアではこの方針に基づいて事業を立ち上げました。転機が訪れたのは2018年、東南アジアの配車サービス大手Grabとの合弁事業です。同社の創業者を含むマネジメント陣と接する中で経営のダイナミズムを体感し、ユニコーン企業ならではのスピード感や人材戦略を学ぶことができました。その経験がまさに当時並行して進めていたインド事業の立ち上げの礎石となり、現地主導の戦略への転換点となったのです。こうして数々の学びを経て勝ち筋が見えてきたのが直近の5年です。
新中期経営計画ではグローバル事業200億円の事業利益達成に向け、「グローバル・トランスフォーメーション」をテーマに次のステージへと進化させます。
当社のグローバル・トランスフォーメーションとは、海外子会社が自社の事業だけでなく各国間のシナジーを創出することにより「SAISONブランド」を世界に展開し、また本社と子会社という立場を超え、互いの学びや良い部分を還元・共有し合うことを意味します。これにより長期的に組織が進化し続けられる基盤が構築されると考えています。
足元は、インド事業をスケールさせていくことに加え、2023年はじめに立ち上げたブラジル・メキシコ事業の軌道化に注力します。両国事業とインド事業の立ち上げ時で大きく異なるのは潤沢な人材リソースです。シンガポールのIHQ(国際統括本部)をはじめ、人材のレベルは5年前と比べ格段に上がっています。国を超えて横断的に事業に携わることで彼ら自身の成長にも繋がり、ひいてはグループ全体のケイパビリティが向上すると考えています。
世界のマクロ環境は日々目まぐるしく変化し、不確実性を増しています。
グローバル事業を取り巻く市況の変化についてどのように考えていますか。
市況と言ってもパンデミックのように世界的に影響を受けるリスクもあれば、政策の変更など各国特有のリスクもあり、一言で語れないのがグローバル事業です。例えば、インドは経済成長に加えてデジタルインフラも整備されているためファイナンス市場の成長余地がありますが、規制のリスクは常に存在します。ブラジルは経済成長が続くものの、サプライチェーンにおけるクレジットの流動化が進む中で金利も下がっていくと見ています。メキシコは中国からの生産移管先として成長性が高く、またファイナンシャル・インクルージョン(金融包摂)の観点でもポテンシャルが高い一方、デジタルインフラの整備は不十分です。私たちはアンダーサーブド層を対象とした拡大余地のある市場で事業を展開しているので基本的には追い風と見ていますが、こうした国ごとのリスクに対し本社の指揮下で共通化された戦略では対応しきれません。そこで重要なのが現地に精通した人材の存在です。インドでは事業開始直後にパンデミックによるロックダウンを経験しましたが、その間システム構築に力を入れた結果、成長は加速しました。与信面においても、まだ事業が小規模だったこともあり痛みを最小限に抑えながら貴重なワーストケースデータを獲得できました。このように臨機応変に対応できたのはまさに現地人材のおかげであり、ここに当社がかつて日本で乗り越えてきた総量規制や上限金利等の経験・ノウハウを注入することで、先々に起こりうるあらゆるショックに備えることができると考えています。
インド事業の取り組みと今後の具体的な施策、および課題について教えてください。
インド事業は現地のFinTech企業との提携(BtoBtoC)による市場参入の結果、リスクを低減しながら幅広い知見・データを蓄積することに成功しました。一方で本格的に事業を大きくし持続的に成長していくには、エンドユーザーへの直接貸付(ダイレクトレンディング)への参入は不可避と考え、2年ほど前からBtoCモデルに注力しています。今年に入り有担保ローンの提供も開始するなど多角化を進め、残高伸長とともに収益性の向上、リスク分散も図ります。また資金調達については、信用格付機関からのAAA格付をもとに現地銀行からの借入、社債・CPの発行と多様化を進めてきました。今後さらに債権の流動化により自社のバランスシートに制約されない成長、資産効率の向上を目指します。
課題面では先ほどお話した規制リスクが大きいですが、専門チームを設置し迅速かつ適切に対応できる体制を設けています。規制リスクが高いと聞くとネガティブに思われがちですが、インドの場合根底にあるのは市場の健全な成長・消費者保護であり、中長期目線ではむしろ必要な過程であると理解しています。
各地で事業を牽引する人材の活躍についてどのようにお考えですか。
よく「どうして優秀な人材を集められているのか?」と聞かれますが、さまざまな観点がある中で最終的には組織の「DNA」が大事だと考えています。信用力や資金力であれば他にも魅力的な企業はたくさん存在しますが、新しいことに挑戦する、走りながら考える、という創業当初からのDNAに惹きつけられて当社を選んでくれたメンバーは少なくありません。転職は当たり前という海外において一人ひとりのリテンションはもちろん大事ですが、何よりDNAに共感してくれる人材を惹きつけ続け、たとえ人が変わっても継承していくことが大事だと考えています。このDNAを言語化し共通理念とするものとして、今年初めてグローバル事業独自の「Mission・Vision・Values」を策定しました。こうした取り組みをより効果的に社外に発信すべく、現在ブランディング&コミュニケーションにも力を入れています。
森専務はサステナビリティ委員会委員長でもありますが、昨今のサステナビリティを
取り巻く環境の変化や、クレディセゾンの具体的な取り組みや成果についてお聞かせください。
当社がグローバル事業で展開しているアンダーサーブド層への資金提供は、SDGs達成にも必要とされるファイナンシャル・インクルージョンとして広く認知されています。言い換えれば、グローバル事業そのものが社会にポジティブ・インパクトをもたらす事業だということです。そこで、グローバル事業を担当する私がサステナビリティ推進部を管掌しつつ、当社のサステナビリティ推進委員会の委員長としてグループ全体のサステナビリティを統括し、対外発信を強化することで企業価値向上を目指しています。
2023年度のグローバル事業に関連する取り組みとしては、Saison Internationalに組成したインパクトチームにより、11月に当社グループ初のインパクトレポートを発行、またサステナビリティ推進委員会の中に新たにSocial Impact推進WGを設置し、同チームのメンバーがトップを兼任するなど本社と海外子会社の融合を進めています。気候変動への対応面では、初の取り組みとしてインド子会社のCO2排出量を測定、2024年度の開示を予定しています。
サステナビリティは今、投資家が企業を選別する際の判断要素の1つであり、上場企業として対応がマストな取り組みも増えつつあります。当社は引き続き事業を通じた社会的価値の創出を図ると同時に、その取り組みを積極的に発信し続けていきます。
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Pte. Ltd. COOKeith Wong
Keith Wong
2018年、「SAISON」ブランドがまだグローバルには広く知られていない時期に、私はSaison Internationalの2人目の現地採用メンバーとして入社しました。その際感じたクレディセゾンのユニークで革新的な企業文化は、この数年でさまざまな新規事業の立ち上げに成功した大きな要因だと考えています。Saison Internationalは今や多様なバックボーンを持つ30名からなる当社のIHQとして、海外子会社間の交流やノウハウの共有を通じて各国のリーダーとともにビジネスチャンスを模索し、今後の課題に備え続けています。次の10年、さらにその先を目指して、不確実性を乗り越え、当社のグローバル事業をさらなる高みへと導いていきたいと思います。