財務資本戦略
CFO メッセージ
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当社はこれまで、成長を加速したいという思いを常に抱きながらも、2010年以降は、貸金業法の改定や過払い金問題への対応、さらには基幹システムのリプレースに相応の時間と労力を費やしてきました。目の前にある経営課題を乗り越えることにリソースを割かなければならなかった大きな要因は、当社がペイメント事業の一本足打法に近い状態であったことがあります。この10年強の間、私たちは課題乗り越え、企業としての基盤を強化しながら、2本目の柱としてファイナンス事業、3本目の柱としてグローバル事業を育成し、成長軌道に乗るための準備を整えてきました。
2023年度の業績結果には、構造改革を経てペイメント事業が回復し、ファイナンス、グローバルの各事業でも明らかに「稼ぐ力」がついてきたことが表れています。成長を加速したくても対応しなければならない課題がある、その時代から解き放たれ、まさに今、私たちは成長加速に向けて機が熟した、そのような心持ちでいます。
[ 主な経営指標 ]
● 前中期経営計画(2022-2024年度)の連結事業利益目標700億円を1年前倒しで達成
● スルガ銀行㈱との資本業務提携、グローバル事業・関係会社事業の伸長など、
次のステージへ向かう基盤を構築
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新中期経営計画で目指す財務目標
今年5月に発表した3年間の新中期経営計画(以下、新中計)では、最終年度となる2026年度に連結事業利益1,000億円、ROE9.5%という数値目標を掲げました。これまでROEについては中長期で10%以上を目指すと申し上げてきましたが、具体的な年限を設けて事業利益以外のKPIを対外的に開示したのは今回が初めてです。そこには、成長加速に向けて機が熟した、そのス新中期経営計画で目指す財務目標テージの変化と私たちの意識の変化を、社内外にしっかりとお示ししたいという思いがあります。実際、資本市場の皆さまからは、目標数値の高さとともに、「かなり踏み込んでいる」とポジティブに受け止められたと感じます。
ROE目標の開示の背景には当然、PBRが1倍を割れている現状への問題意識もあります。事業利益とROEの目標数値を目指していくことで、PBRを1倍以上に回復させ、時価総額も1兆円を超える水準に達するという2つの目標も、達成可能と見込んでいます。
事業利益については、2023年度実績の719億円から3年間で1,000億円に引き上げる目標を掲げています。投資家の方の中には野心的だと捉えられる方もいらっしゃいますが、私たちの計画の実現性として、2026年度の事業利益1,000億円の内訳を示しながらご説明しています。2023年度実績からの成長は、グローバル事業が約176億円、ファイナンス事業とペイメント事業でそれぞれ100億円規模で伸長させ、3本の収益の柱が確立される形を目指しています。数値目標達成のカギは、インドを起点に事業規模拡大を図るグローバル事業です。インドで展開するレンディング(融資)事業は、2023年度に債権残高を前年から2倍に伸長させるなど、当社はインドで最も成長しているノンバンクの1つとなっています。このグローバル事業を軸に、ファイナンス事業とペイメント事業も成長を図りますが、特にペイメント事業は、引き続きブレずに改革を進めることで、3年後にこれまでとは異なる持続的成長の姿を描けるようになると考えています。
資本効率に対する考え方
[ 資本コストや株価を意識した経営実現に向けた考え方 ]
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資本効率については、適正な資本規模を認識したうえで、資本を有効に使いながら持続的成長を果たしていくという考えのもと、新中計の策定プロセスでも、かなり長い時間をかけて議論をしてきました。資本効率の観点で重要になるのが、ROEの向上です。2023年度末の当社ROEは、負ののれんを除いたベースで8.3%でしたが、当社の資本コストについて、私たちは8%後半~11%程度と見ています。資本コストに幅を持たせているのは、景気の回復に伴うリスクフリーレートの上昇や、業績・成長力の向上とともに増加する配当、株価期待値を考慮したためですが、資本効率やROE向上の議論をしていく中で、今後3年間では、ROE9.5%の水準が目標として妥当と判断しました。一足飛びに実現できる数値ではありませんが、各事業部がしっかりと利益率を意識しながら、稼ぐ力を高めていくことで達成可能と考えています。
当社のようなノンバンクは、そのビジネスモデルとして、稼ぐためにはアセットを積み上げていかなければならず、資産効率を高めることが重要です。
資産効率を高めるためには生産性の低い資産を減少させることが必要だと考えており、新中計では政策保有株式の70%縮減という方針を打ち出しました。
当社はこれまでも政策保有株式を定期的に見直しており、現在保有しているのは前年度に保有の意義を確認した株式です。保有してきた背景には「セゾン・パートナー経済圏」の構築を図る中で、パートナー企業様との間に緩やかながらもしっかりとグリップできる関係性を構築するための1つの打ち手として、株式の相互保有を捉えてきたことがあります。しかし未来を見据えたときに、私たちの目指す緩やかな経済圏での関係性は、パートナー企業様において株式の相互保有が必要不可欠ではないと判断しました。株式を相互保有せずとも関係性を維持強化できるよう努めていきます。
金利上昇局面での財務方針
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ノンバンクとして絶対に譲れないのは、資金調達の安定性と資金調達コストを上げないことです。格付の維持・向上は財務政策において非常に重要であり、「A格」の維持・向上を目標に進めていきたいと考えています。格付の維持・向上を大前提にした財務施策を打った上で、利益を創出するのに必要な成長投資を実施し、資産の効率化も意識しながら財務健全性を盤石に維持していく。そして資本規模に適正水準から少しバッファーが見られるようであれば、機動的に自己株式を取得する、といった方針です。
これからの金利上昇局面では金融コストの増大は避けて通れません。財務部門として、事業部門の成長機会を資金面でしっかり支えていく上では、財務健全性、安定性が肝要です。これまでのゼロ金利政策下でできるだけ長期性資金を固定金利で調達することを心掛けてきた結果、約75%が長期性資金で、固定金利比率は70%となっています。従って、短期的には、金利上昇局面にある現在も大きな影響を受ける構造にはなっていません。加えて、変動金利の負債・資産ギャップを見ても、現時点では変動金利資産がわずかながら大きくなっており、金利上昇局面であっても逆に収益にはプラスに働いています。
財務部門としては、コストを意識した調達を行うことがこれまで以上に重要になってくると認識してはいますが、現在の財務状況から見ても、当社が中長期でしっかりと稼ぐ力をつけていけば、サステナブルな成長を実現できると考えています。
成長投資の考え方
成長投資の考え方 資本配分と投資戦略については、これまで質と量の両方を勘案して検討を進めてきました。既存事業の中では、どの領域にどれだけの成長機会が見込めるかという見積もりもあり、それらをもとに必要資本を投下してきました。今後は、成長機会の大きいグローバル事業への成長投資を優先し、新中計の成長投資枠800億円のうち、700億円をグローバル事業に投下していきます。グローバル事業は、ファイナンス事業やペイメント事業と比べると、依然、先行投資期間との位置づけですので、単年で見た投資効率は、国内よりも低い状況です。しかし、インドを中心に大きなビジネスチャンスがあり、私たちの想定しているとおりにその事業機会を確保できそうだという確信を持ち始めており、新中計では積極的に資本投下する計画にしています。海外でノンバンク事業を推進する上で欠かせないもののひとつに現地通貨の安定的な確保があり、インドでは子会社自身が格付を取得し、現地での調達も始まっています。今後はシンガポール、ブラジル、メキシコ、インドネシア等についても、現地通貨の安定的な確保とコストとのバランスを意識しながら、最適な調達方法を選択して進めていく考えです。
投資案件の選定基準については、戦略と目的、想定リターン等を材料として総合的に判断しています。その一方で、新たな投資や事業に挑戦する際には、あらかじめ撤退基準を決め、そこを意識しながら定期的にトレースするようにしています。実際に、事業を始めて2,3年であっても、経過が思わしくなく当初の撤退基準に合致するようであれば、将来の見通しに関する材料を集めたうえで、撤退するなら今、撤退する、といった判断もできるような体制になっています。実際にそうした事例もあり、投資に対する定量的なリターンだけでなく、長い目線で見たときに本当に投資が必要なのかということを判断するようにしています。
投資に伴うリスクマネジメントは、グローバル展開が進む中では特に、さらなる強化・維持が必要だと認識しています。ノンバンクである当社のアセット(営業債権等)には、将来の貸倒リスク等が含まれています。そのためそれぞれのアセットに付随するリスク量を測定し、そのリスク量に照らした資本の十分性をウォッチしていくリスクキャピタルマネジメントを導入し十数年経過する中でリスク量の測定精度も確実に向上し、しっかりとした管理体制が構築できています。事業部側で今後も着実にアセットを積み増せるよう、財務側でしっかりと管理しながら、成長に貢献していきます。
株主還元
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株主還元については、2023年度は連結業績を踏まえ、直近の配当予想から5円上回る1株当たり105円としました。安定的かつ継続的な配当を実施するという基本方針は変更しないものの、稼ぐ力がついてきた中で配当水準についてステークホルダーの皆さまにより明確に示していきたいとの考えから、新中計では、配当性向30%以上という目安をお示ししました。また、自己資本額の適正化に向けて、3年間で700億円を目途に、機動的に自己株式の取得についても実施していく方針で、そのうちの500億円については、中計初年度の2024年度での実施を予定しています。
投資家の皆さまとの対話
私はCFOに就任する前は事業部でキャリアを積んできており、財務・経理畑の経験がないCFOという点では異色かもしれません。しかし事業部での経験が活かせることを1つの強みと前向きに捉え、IR活動については、コーポレート部門として企業価値向上に貢献できる1つの手段であり、特に無形資産等も含めて経営の構成要素が複雑化している中では、価値創造のプロセスを統合し、ストーリー化することが重要であるとの意識をもって、積極的かつ前向きに注力しています。
また、私もIRチームも常に意識しているのは、投資家の皆さまとの間には必ず認識にギャップがあるという前提で対話に臨み、その上で先方の考え方を正しく把握して、当社と投資家の皆さまとの間にあるギャップを埋められるよう努力することです。私たちの考えをすべて開示しているわけではないので、ギャップが生じるのは当然のことです。その意味でも、IR活動では役員をはじめとした幹部自ら投資家に向き合い、各事業の当事者がスピーカーとして事業についてご説明する機会を持つことも有効だと考えています。これまで、デジタル戦略やグローバル事業戦略に特化した説明会を開催してきましたが、2024年度は、COOの水野とともに、海外も含めた機関投資家へのIRを実施していく予定です。
当社の成長を牽引するインドの事業については、全体として成長を確実視してはいますが、その過程では波も予想されますので、当社が次元の違う成長ステージに飛躍していく姿を長期目線で理解し、支えていただける株主の方々を増やしていきたいと思います。
ステークホルダーへのメッセージ
ここ数年、当社で働く人たちのモチベーションは、これまで以上にワクワク感に満ちていると肌で感じます。そうした社内の雰囲気は、業績にも好影響をもたらしており、2026年度に事業利益を1,000億円にするという目標は、決して高く厳しい目標ではなく、きっと達成できるという思いで日々、仕事をしています。それは、これまで当社が変革を遂げながら厳しい時代を乗り越えてきたからこそ。今後も時代やニーズに合わせて形を変えながらグローバルで大きく活躍する企業となり、これまでのクレディセゾンに対する皆さまのイメージの枠を越える成長を遂げていきたいと思っています。ステークホルダーの皆さまにはそのような姿にご期待いただきながら、引き続き応援していただけるとありがたく思います。