CSDX戦略
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2023年度は内製開発組織、内製化領域がともに拡大した1年でした。内製開発チームは150名規模まで拡大し、フロントエンドだけでなく、バックエンドの基幹システムを手掛けることも増えてきました。内製化ならではの柔軟性に加え、外部に委託する場合と比べてシステム構築コストが半分以下に抑えられるため、各事業の利益率向上に寄与しています。規模が拡大しても品質や堅牢性とスピードの両立が維持できており、最近では「クレディセゾンの話を聞いていると、まるでスタートアップやSaaS企業での開発の話を聞いているようだ」と言われるようなことも多くなってきました。「バイモーダルIT」という用語には、安定性を重視する「モード1」とスピードを重視する「モード2」という考え方があります。これらは両方とも重要な価値観ですが、しばしば対立しがちです。当社では、「HRTの原則」を最大限に活用し、この違いを強みに変えていける組織づくりを目指しています。
デジタル人材育成に関しては、エンジニアコースとデータサイエンティストコースの2つのコースを用意しています。総合職社員が公募に手を挙げてリスキリングを目指す場合にも、デジタル新入社員がスキルを身につけることを目指す場合にも、教育会社の協力を得て作成した独自教育プログラムの実施に加え、中途入社のプロフェッショナルがメンターとしてサポートする体制を整えています。
今後、内製開発の力をより幅広く事業競争力強化に結び付けていくには、従来、情報システム部門がベンダーとともに開発・保守してきた既存のシステムや業務に関する知見が必要です。情報システム部門と内製開発チームの知見が結び付けば、もはや内製開発が不可能な領域は存在しなくなり、あらゆるビジネスや業務が効率化、省力化、高速化していくはずです。「こんな領域のシステムまで自社で作ってしまうことができるのか」。そんな風に驚かれるような事業会社を目指していきたいと思います。
2023年度の成果、振り返り
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2023年度は業務プロセスの完全デジタル化の実現に向けて、デジタル部門が中心となり、業務プロセスの見直しや改善を推進しており、ビジネス部門から"あるべき理想の姿"をヒアリングし、その実現に向けてデータ処理の自動化や、ワークフローの構築等に取り組んできました。これまでに300件を超える案件がエントリーされており、これらを自動化することができれば、年間20万時間以上の削減効果があると見込んでいます。
また「全社員によるDX」の実現に向けて、デジタル人材の育成にも積極的に取り組んでいます。2024年度はデータベースからデータを抽出するスキルを標準化するための基礎講座を新たに構築しており、従来はIT部門や一部有識者に任せていたデータ抽出を社員が誰でもできるようにしていきます。加えて、2023年度から取り組んでいる事業部門に所属している人材がローコードツールを活用して内製開発を実践する取り組みも着実に成果が出始めており、工程管理をするための仕組みや、会計処理の自動化等が実現できています。
経営戦略や事業課題に基づいたトップダウン式のデジタル化だけでなく、現場に点在している手作業や属人化された業務もボトムアップ式でデジタル化していく取り組みが構築されており、さまざまな方向から業務を変革する仕組みが着実にできています。

ノーコード・ローコードツールの活用
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参加者が自部署の課題を役員に提案した「CSViz」
(クレディセゾン・ビジュアライゼーション)
ノーコード・ローコードツールの活用ノーコード・ローコードツールを活用した業務効率向上を目指し、社員向けのリスキリング提供を拡大しています。2023年度から開始した内製の研修プログラム「シチズンデータサイエンティストコース」の一期生が3月で卒業を迎えました。コールセンターや債権管理部門など、幅広い領域から集まった参加者が、自部署の課題を解決するためのダッシュボードを作成し、役員に対してプレゼンテーションを行うイベントが開催されました。このイベントは社内向けにオンラインでも配信され、視聴していた社員約200名と、役員による投票で最優秀賞が表彰されるなど大いに盛り上がりを見せました。
アンケート結果では、他部署の課題を知る貴重な機会となったことや、来期への挑戦意欲が多く寄せられました。今期も引き続きプログラムの内容を充実させ、市民開発者の育成に努める予定です。また今秋より新たな認定制度として、社内データに特化した抽出スキルメインの学習プログラムを開始します。今まで以上に企業全体のデジタルリテラシーを向上させ、業務効率のさらなる改善を図ります。

生成AIの活用
2023年から注力している生成AIの活用において、全社員が利用可能な内製開発のサービスとして、社内専用ChatGPT、社内問い合わせSlackチャットボット、議事録作成システムの3つを提供しています。
社内問い合わせSlackチャットボット「FAQアシストくん」は、社員がSlack上で社内に関する質問を送信し、RAG※1の仕組みを用いて生成AIが回答するものです。生成AIにはハルシネーション(誤った情報の生成)というリスクが存在するため、AIの回答を担当部門が確認してから質問者に回答を返すHuman-in-the-Loop※2の考え方を取り入れることで、この問題を防止しています。また、担当部門の確認をスキップして直接AI回答を得る選択肢も用意しており、社員はこれらを使い分けて迅速かつ効率的に社内情報を取得することが可能です。
生成AIの活用は、企業の成長と競争力強化において極めて重要な要素となっています。今後はEX向上にとどまらずCX向上においても生成AI技術を活用し、より良いサービスと価値を提供していきます。
※1 RAG(Retrieval-Augmented Generation : 検索拡張生成) 社内データ等の外部情報の検索を組み合わせることで、生成AIの回答精度を向上させる技術のこと
※2 Human-in-the-Loop システムの一部の判断や制御にあえて人間を介在させること
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