社外取締役による座談会
次なる成長ステージに向け、
変化に強い企業体質の構築を
目指します
中期経営計画初年度の評価と今後の課題について

- 横倉
- 中期経営計画初年度は全体としては計画通りに進捗し、合格点だと評価しています。
ペイメント事業は、構造改革も進み計画を上回りましたが、グローバル事業は、インドやベトナムは好調だったものの、地域によって凹凸があったとの印象です。
- 坂口
- 初年度の決算は力強く、中計の目標を達成する可能性が高いことを示せたと思います。一方、金利の上昇スピードが想定以上に速く、これまでの資産拡大による成長ステージから、資産効率にフォーカスを当てた事業性能を問われるステージに入ったと感じています。グローバル事業は新興国でのビジネスですので失敗もあると思います。
私が取締役会などで指摘するのは、一部の国ではROICがその国のリスクフリーレートを下回っている 点です。金利上昇局面でのROICの改善を考えると、事業ごとの収益性を踏まえ、戦略的な選択と集中を検討すべき段階に来ていると認識しています。予算の組み立て方や、KPIの設定もさらなる議論が必要です。特にグローバル事業に関しては、リスクもポテンシャルも高い新興国でどのようなリターンを得れば成功と捉えるのか、そうした観点での議論をさらに深める必要があると考えます。
- 干場
- 毎月の業績報告からは、担当役員の数値達成へのコミットメントの強さを感じますし、2024年度から監査室を「監査部」へ改称し、同部に「国内監査室」と「グローバル監査室」を新設するなど、ガバナンス体制の進化も図っています。現在の構図は利益率の低いペイメント事業が当社を支えている一方で、中計の目標達成はグローバル事業への依存度が高い印象ですが、新興国でのアンダーサーブド層に向けた融資は、金融包摂の観点からも社会的意義の大きい事業であり、回収体制が機能すれば、利益拡大と併せて当社ブランドの信頼性を高める効果も期待できます。世界にセゾンブランドが広がる姿は楽しみですし期待もしていますが、坂口さんのご指摘はごもっともで、中期計画の達成において、新規事業の果たす役割を慎重に見極める必要があると感じています。
- 牧山
- 好調な時ほど、シビアに次期中計を見据えて種まきしていかなければなりません。当社がグローバルに注力するのは理解しますが、世界情勢とともに金利情勢も大きく揺れる中、グローバル事業が成長の遠心力でもありリスクでもあります。新興国でのビジネス展開におけるリスク管理は重要ですので、監査部で冷静に分析する必要があると思います。好調な時ほど、事業の縮小・撤退といった後ろ向きの判断をするのが難しいものですが、世界情勢を見据え、リスク評価に基づく柔軟かつ迅速な意思決定が一層求められる時代にあると感じます。
日本においてクレディセゾンは、心豊かに生活を謳歌してきたミドル・シニア層に支持されるブランドとして認知されていますが、今後の成長の鍵は、若年層への提案を通じたブランド拡大だと考えます。この層は貸倒リスクが相対的に高いものの、当社は厳格な審査と高度なシステムにより、不正利用リスクを極めて低く抑えています。

- 横倉
- グローバル事業の歴史は浅く、各国で規制、経済、金利などの事業環境が異なる中で、成長曲線にばらつきがあるのは仕方ありません。むしろ、一国に集中しすぎてそこが失敗するリスクよりは安定していて良いでしょう。一方、グローバル事業で成功したこと、うまくいかなかったことをしっかりと振り返り、全体戦略として、バランスシート(以下BS)を管理しながらリソース配分や、国ごと・事業ごとのKPI設定、てこ入れ施策などを考えていく段階だと思います。
- 干場
- リスク許容範囲や出口戦略もそれぞれ明確化すると良いですよね。
- 横倉
- そうですね。これまでの経験の積み重ねを踏まえ、次の成長ステージに着実に進んでいくことを期待しています。
- 坂口
- 出口戦略も重要ですが、グローバル事業はリスクを取っている一方で、現状では期待される収益性とのギャップが見受けられます。
グローバルに限らず、どういうリターンを目指すのか、皆で深く議論し、判断した上で方針を決めて成長を目指していかなければなりません。
- 牧山
- 当初想定から乖離した時など、一般に例外的な猶予を設ける判断がなされることがありますが、今は事業環境が年単位で大きく変わる時代ですので迅速かつ柔軟な経営判断が求められますね。
資本効率の向上・PBRの改善に向けて

- 坂口
- PBR改善に向けてはかなり議論し、事業ごとのリターンも算出していますが、WACC等の資本コスト に達していない事業も多く、結果として低ROAにとどまっている現状を踏まえると、金利上昇が想定以上に速い中、事業ごとの採算を睨みながら、事業継続の可否についても議論する時期にあると思います。過去に、従業員一人当たりの生産性をもっと意識してほしいと提言したところ、各部門ですぐに対応いただき、短期間で労働生産性が大きく改善しました。労働生産性と資産効率性の掛け算がROAの向上につながりますので、資産効率がさらに改善していけばPBR1倍超えも見えてくると思います。
- 干場
- 資産の効率的な活用に向けて、不動産ST(セキュリティ・トークン)や事業再生ビジネスなど、カード業界初となるプロジェクトに挑戦している姿はクレディセゾンらしいと思います。それがひいてはPBR向上に資するのではないかと期待もしています。
- 牧山
- 当社の場合、BS管理とROAとのバランスを重視し、まずROAの向上を図り、それから最終的にROICの改善につなげていくのが正しい姿のようにも思います。
- 横倉
- 事業構造的にBSがかなり大きく膨らむ中で、保証業務や手数料ビジネスのようにBSを使わないビジネスで収益の向上を図ったり、最近取り組んだ不動産STなどもその延長線ですが、アセットの入れ替えもできるだけ利回りを取れる商品を拡大したりと努力しています。BSへの影響が大きいペイメント事業では、資金を確保しなければならない中で、資金調達コストの上昇や加盟店手数料の下方圧力に直面しながら構造改革を進め、ROAの改善につなげています。
全体のBSが大きくドラスティックな改善が見えづらい難しさもありますが、努力を積み重ねると同時に、グローバル事業の成長や積極的なIR活動を通じて、資本市場に成長期待を醸成できればPBRの向上にもつながると思います。
- 坂口
- ペイメント事業はものすごくBSを使うので、10年先を見据え、ペイメント事業でどう競争力をつけるのか、収益構造の転換にも踏み込んで議論していくことがROA改善に向けても一丁目一番地です。
クレディセゾンの企業文化

- 牧山
- 私は前職で、クレディセゾンの経営陣から一番遠い現場で、セゾングループへの自負と働きがいを持って人々が仕事をする姿を見てきました。旧セゾングループには、新しい文化を作り、生活を変える力がありました。当社はそのグループの中枢企業として、社員からいろいろとアイデアを募り続け、その力を受け継いでほしいと思います。
- 横倉
- 当社はまじめな企業風土ですが、セゾンらしさと言えば、文化的で遊び心のあるカルチャーをイメージします。
「総合生活サービスグループ」の発想もセゾンらしさから来ていると思いますので、金融を核に人々の生活をどう豊かにしていくのか注目しています。
- 坂口
- 1980年代、セゾングループは新しい価値を提案する時代の先端を行く存在として多くの若者に影響を与えていた印象があります。エッジの効いたアイデアに加え、組織内での活発な意見交換を重視するカルチャーが共存していたように思います。社外取締役として参画してみて、社員の仲間意識や価値観の共有という点では変わりませんが、自分たちの提案で新たな時代を作ろうという意識はあまり目にしません。若い世代には、セゾンらしさを見出してほしいと期待します。
- 干場
- 私が人生で初めて自分の名前で取得したクレジットカードはセゾンでした。他にはない最先端を行くカルチャーを感じましたし、消費者として親しみやすい愛着もあります。柔らかいカルチャーは今もあり、若者にチャンスを与えるイノベーティブな風土も健在しています。
- 横倉
- 当社のカード会員の年齢層は比較的高く、この層と若い人とではセゾンへのイメージも異なります。さまざまな世代に向けて、きちんと収益を確保しながらどうブランディングを広げていくかがポイントだと思います。
ガバナンス体制についての評価・課題

- 横倉
- 取締役会では健全に議論できていますし、私が就任してからの5年間を見ても着実に進化が見られます。坂口さんが指摘された一人当たりの生産性についても、すぐに対応された機敏さもあり、社外取締役の指摘を真剣に受け止めてくださいます。さらなる高度化に向けて、グループガバナンスやグローバルガバナンスの強化が今後の課題です。
- 坂口
- 社外取締役が自由闊達に発言・質問がしやすい点で、ガバナンスは機能していると思います。取締役会での社外取締役比率をさらに高めていければ、監督機能が強化されると考えます。
- 横倉
- そうですね。社外取締役だけでなく社内取締役の発言も最近は増えてきました。ただ、自分の管掌以外への意見はまだ少ない印象です。グローバルでの資源配分を議論する上でも、社内取締役が管掌領域にとどまらず、グループ全体の課題に強い関心を持ち議論することが、さらなるガバナンスの高度化につながると感じます。それは蛸つぼ化を防ぎ不祥事を防止することにもつながります。

- 干場
- 取締役会の事前説明も丁寧です。その場での質問や意見も可能ですし、それを踏まえて機敏に取締役会までに資料等を準備してくださいます。今後、指名報酬委員会において、次世代リーダー像の明確化や、それを基にした人材育成方針の整備も進めていくことが望ましいと考えます。
- 牧山
- 今後さらに取締役会の実効性を高めるには、社外取締役の比率拡大や経営トップの職責明確化も一つの方向性になりうると思います。
また、人口の半分は女性です。多様性の推進という観点からも、女性役員の登用も今後一層強化されていくことを期待しています。
ステークホルダーへのメッセージ

- 坂口
- あるべき議論や重要なテーマをきちんと議論の土台に載せることが社外取締役の役割と思いますので、タブー視せず役割を果たしていきます。
- 干場
- 一般消費者に近い目線を持っている者として、プロとは違った視点から疑問やフィードバックを投げかけることで貢献していきます。
- 牧山
- 風通しは良い風土ですが、社内にあるさまざまなアイデアを取締役会まで上げられるようにすることも私の重要な役割の一つと捉え、全力を尽くして頑張ります。
- 横倉
- 多様な視点を持った人が率直に意見を出し合って議論することが、視野狭窄を防ぎます。その役割を担うのが社外取締役です。会社の現状をしっかり理解した上で、聖域を作ることなく、今後もその役割を果たしていきます。



