『ゆるスポーツ』という競技をご存知でしょうか? ゆるスポーツは、一般社団法人 世界ゆるスポーツ協会が提唱する、年齢・性別・運動神経や運動経験・障害の有無に関わらず、誰もが楽しめる新たなスポーツのこと。手にツルツルのハンドソープをつけてハンドボールをする「ハンドソープボール」や、専用のイモムシウェアを着てほふく前進し転がりながらラグビーをする「イモムシラグビー」など、どの競技も『ゆるく』楽しめるというのがテーマです。現在約30種目あるそうですが、200人ものスポーツクリエイターたちが日々新しいゆるスポーツを生み出すために研究を重ねているんだとか。今回は、そんな気になる『ゆるスポーツ』を体験してきました!

文:園田 波子(CHIENOWA)
運動が苦手でも活躍できるスポーツ。『ゆるスポーツ』とは?
学生時代からスポーツが苦手な私は、社会人になるとさらにスポーツをする機会は減り、運動不足解消のために始めたいとは思いながらも、いろいろな言い訳をつけてなかなか行動に移せずにいました。

 

今回ゆるスポーツに参加するセゾン社員2名。左が筆者。
そんな時、元ハンドボール日本代表主将 東俊介さんとご縁があり、『ゆるスポーツ』という新しいスポーツがあるということを知ったのです。初めて聞いたとき、スポーツは厳しく、大変なものというイメージを持っていた私は「スポーツなのに、ゆるいって、どういうこと?」と思いましたが、なんとなく楽しそうな響きに興味を持ちました。さっそく東さんよりハンドソープボールの体験会を実施するとのお誘いを受け、学生時代は球技ではまったくといっていいほど活躍できなかった(むしろ足を引っ張っていた)自分に若干の不安はあるものの、『ゆるい』という言葉に期待し、日ごろの運動不足を解消すべく参加することにしました。
ゆるい!? 意外と厳しい!? おもしろ準備運動でウォーミングアップ
当日の体験者は10名ほど。参加者は一人ひとり見える位置に名前を貼り、自己紹介からスタート。半数以上はハンドボール未経験者、もちろんハンドソープボールは全員が未経験です。自己紹介を終えると、東さんの指揮のもとユニークな準備運動が始まります。まず、東さんと全員でじゃんけんを行います。あいこまたは負けた人は腿上げを4回。次に、2人1組で足を使ってのじゃんけんを行います。これもあいこ、負けた人はキラキラジャンプ。このキラキラジャンプがすごいんです。大人たちがキラキラと大声で叫びながら大の字になり全力でジャンプをします。初めはキラキラジャンプって…? と戸惑っていた参加者も、想像以上にハードな動きと、真面目に罰ゲームを行う姿がシュールすぎて思わず笑ってしまいます。

 

じゃんけんに負けた人は『キラキラジャンプ』! 恥ずかしさもあって、笑いが起きます。
ハンドソープボールの基礎! ハンドボールを知る
身体が温まってきたところで、いよいよ実践です。ハンドソープボールのルールは基本的にはハンドボールと同じです。
<ハンドボールの基本ルール>
ボールを相手ゴールへと入れると得点。ボールを持って歩けるのは3歩まで(バスケットボールより1歩多い)。ボールを持っていられるのは3秒間まで。

 

ハンドボール元日本代表主将の東さんが丁寧にルールを教えてくれます。
4人1組でキャッチボール、ランニングパスからのシュートを練習します。練習を行ううちに、ハンドボールのルールが少しずつ理解できるようになってきました。

 

ジャンプシュートを練習! タイミングをとるのが難しい。
ゆるさあり、笑いありのハンドソープボールに、いよいよ挑戦!
ボールの扱いに慣れてきたところで、いよいよハンドソープボール体験のスタートです。2チームにわかれ、それぞれのチーム名を考えます。

 

男女混合2チームをつくります。
ハンドソープボールの競技時間は前半、後半の10分ずつ。ドリブルやボールを落としてしまうのは禁止など、ハンドボールにオリジナルのルールが追加されます。まずは試合前に全員、スターティングソープとして専用のハンドソープを手につけます。このハンドソープ、なにが入っているかは企業秘密だそうですがとんでもなくツルツルなんです。普通のハンドソープの1億倍だとか。(ゆるスポーツ協会比)

 

これが通常の1億倍ツルツルなハンドソープ! とんでもなく滑ります。
想像以上にボールが滑りやすくなり、いままで簡単にできていたキャッチや投げるなどの基本動作もままならず、急に難易度が急上昇したことによって参加者はみんな真剣な表情でツルツルのボールと戦います。片手でボールを投げようとしてもすべってしまい思った方向に飛びません。また、受け止めるときもそっと持ち上げるようにキャッチしないと滑って落としてしまいます。なお、すべらせてボールを落とすなどのルール違反をすると審判がすかさずホイッスルを鳴らし、各チーム1名ずつ設置された、ソーパーというハンドソープを補給するプレイヤーから、アディショナルソープとして、1ソープ追加されます。

 

ソーパーにチャレンジする筆者。ひっきりなしにホイッスルが鳴るので意外と大忙しでした。
ハンドソープボールではうまくボールをキャッチできずに失敗しても気まずい雰囲気になることはありません。審判の「ワンソープ!」という声とともに、笑い声が巻き起こります。試合終了後は、ハンドソープまみれの手で相手チームと握手をし、不思議な一体感が生まれていました。
なんでこんなに楽しいの? その謎に迫ってみた。
スポーツのなかでも、とりわけ苦手な球技。自分が本当に楽しめるのか? そんな不安を抱えながらの参加でしたが、結果めちゃくちゃ楽しかったのです。はたから見ると大の大人がハンドソープまみれになりながらボールを投げ合う姿はまさに『ゆるい』。ですが、ゲームに負けると恥ずかしいキラキラジャンプをしなくてはならないし、基本動作であるキャッチすることも投げることも難しいので、必死になるあまり息は絶え絶え。「ゆるスポーツ、全然ゆるくなかった…。」と同僚と恨み言を言いながらも、嫌だとかネガティブな気持ちにはまったくならなかった自分を不思議に思いました。

「あれ? 私、スポーツ苦手だったよな…?」

参加者同士、冗談を言いあうほど仲良くなったこともすごく不思議に感じ、今回指導してくださった東 俊介さんに直接この疑問を投げかけてみました。

 

体験終了後、東さんよりお話をうかがいました。奥から、東さんと筆者。
――東さん、今日はありがとうございました。とっても楽しかったです。でも、思っていたより全然ゆるくなかったです。
それは狙い通りです(笑)。ゆるスポーツには『スポーツが苦手だ』という人も多く参加してくれます。そういう人に少しでもスポーツの魅力を伝えるためにさまざまな工夫をしているんです。そのうちの一つが準備運動。怪我をしないためにもウォーミングアップをしっかりする必要があるのですが、スポーツ嫌いの人って準備運動が嫌いな傾向にあると思うんです。なのであえて勝ち負けがあるゲームをしながら身体を温めます。勝ち負けがあるからみんな真剣になっちゃって、ぜんぜんゆるくなくなってしまうんですよね。でも結果、普通のウォーミングアップよりあっという間に身体は温まるんですよ。

 

合図に合わせて早くボールを取った方が勝ち。勝ち負けが関わるとついつい本気になってしまいます。
――じつは私もスポーツが苦手なんです。でも不思議なほど楽しめてびっくりしました。どうしてこんなに楽しめたんでしょうか…?

自分もハンドボールに出会うまではスポーツが苦手だったんです。スポーツが苦手になってしまう原因ってミスを怒られたり、ヘタクソって非難されたりした経験に基づくものだと思うんです。その点、ゆるスポーツはミスして当たり前。ツルツルのボールを上手にキャッチなんて出来るわけないですよね(笑)。でも、スポーツの本質は勝ち負けや技術などよりもコミュニケーション。それを伝えられるように、じつはさまざまな工夫を盛り込んでいます。たとえば、チーム決めのとき周りと手を繋いで輪をつくる。いきなり手を繋ぐところから始めることで心理的ハードルをグッと下げることができます。あとは見えるところに名前を書いたシールを貼ること。大人になると相手に何回も名前を聞けないですよね。1回で覚えられなかったら、もう相手の名前を呼べなくなってしまう。ほかにも、チーム名を決めさせることでコミュニケーションを取らざるを得ない状況をつくるなどの工夫をしています。

――そんなにたくさんの工夫があったんですね。気が付かなかったけど、言われてみれば「たしかに!」と思います。そもそも、どうして『ハンドソープボール』を思いついたんですか?

自分のなかの『苦手』を克服させてくれたハンドボールをもっとメジャーなスポーツにしたいんです。地域の子どもたちにハンドボールを知ってもらうために体験会を開いて教えにいったり、さまざまな活動をしました。でも、あるとき「この活動は指導であって普及になってない。自分はハンドボールを普及させたいんだ。」と気が付きました。そんなときにゆるスポーツ協会の代表・澤田さんに声をかけてもらい、ゆるスポーツとしてのハンドボールを考えるようになりました。どうしたらスポーツに対して苦手意識を持っている人が楽しめるのか、スポーツが苦手だった昔の自分を思い出しながら既存のルールにいろいろな要素を加え出来上がったのがいまのハンドソープボールです。

――スポーツが苦手な人が、苦手な人のためにつくったスポーツがハンドソープボールなんですね…! だから私もこんなに楽しめたんだなと納得です。
ゆるスポーツとは、『みんなで楽しむ方法』を追求したスポーツだった。
東さんのお話を聞いて、スポーツが苦手な私も楽しめた理由がなんとなく分かった気がしました。どうやら、私はスポーツを上手いとか下手とか、勝ち負けによる優劣をつけることだと思っていたようです。東さんからは『そうじゃない、みんなで楽しむことが目的なんだ!』という熱い思いがビシバシと伝わってきました。

ゆるスポーツでは身体の一部の動きを制限されるため、運動が得意な人も、苦手な人も、全員が同じ条件のもとで参加することができます。個々の身体能力にコンプレックスを抱くことなく、自然にコミュニケーションを図ることができるゆるスポーツ。大人になった私たちでも子どものように分け隔てなく楽しむことができました。

運動が苦手な人も、得意な人も、みんなが一緒になって楽しめる新しいスポーツを、ぜひ体験してみてはいかがでしょうか。

 

体験終了後に集合写真を撮りました。みんな子どものように遊び尽くして、いい笑顔です!
プロフィール
東 俊介(あずま しゅんすけ)
元ハンドボール日本代表主将。日本代表として数々の国際試合に出場し、2009年に現役引退。引退後は早稲田大学社会人大学院にて元巨人軍の桑田真澄氏らとともにスポーツマネジメントを学び、現在は卓球の新リーグ・Tリーグに参戦する琉球アスティーダの取締役、世界ゆるスポーツ協会理事や、複数の企業におけるスポーツ事業のコンサルティングも行う。
著書に「企業スポーツの現状と展望(創文企画)※共著」、著作に「ハンドボール・ポストプレーヤー育成プログラム(トレンドアクア)※監修」、「ゼロから始めるハンドボール(ジャパンライム)※指導解説」。


園田 波子(そのだ なみこ)
株式会社クレディセゾン 戦略企画部 商品・サービス開発グループ。
スポーツ観戦は好きだがどれもルールはあまり詳しくない、にわかスポーツファン。