大事なのは、一番しんどいところだけは触れないでおいて、それ以外のところで普通に接してあげること。
―スマイルファクトリーのような活動がさらに広まって、ほかの自治体も変わっていけばと思いますが、もう少し時間がかかりそうですね。たとえば、身近に不登校の子がいる場合、どうやって声をかけるのがいいのでしょう?

白井:普通に接してあげることですね。ただ、「普通に」って言うと、みなさん「どうして学校へ行ってないの?」と聞いてしまったりするんだけど、そうではなくて。その子の一番しんどいところだけは触れないでおいて、それ以外のところで普通に接することです。

スマイルファクトリーにも、スクーリングに来れなくなる子がいますけど、ようやく出てこれたという日に「久しぶり!」と声をかけることはありません。昨日までいたかのように接しますね。

―思いやりのうえで普通に接すること。意外と難しい気がします。

白井:たとえば、その子が持っているものや、好きなものについて話したり褒めたりするのはいいですね。学校に行けない子は、自己肯定感が低い子が多いですから、パーソナルな話を根ほり葉ほり聞いてしまうと、責められているような印象を与えて自信をなくしてしまいます。

難しいのは、褒めすぎても「期待に応えねば」という過度なプレッシャーにつながってしまうこと。趣味の話とか、その子の周りにあるものに目を向けるようにしています。

 

 

小中学生の体育の授業ではバスケ、高校生の美術の授業では折り紙を使った作品作りを。先生と生徒の距離も近い
―不登校の子どもには、自己肯定感が低い子が多いんですね。

白井:そうですね。スマイルファクトリーに見学に来られる親御さんから、「(自分の子どもと)同学年の子は何人くらい通ってますか?」ってよく質問されますが、実際はうんと年が離れた子ども同士のほうが仲良くなるんです。同学年だと知らないうちに自分と比べてしまいますし、うちに通うような子たちはそこで劣等感を持つタイプが多いんです。だから、年齢を超えた交流ができる機会をできるだけ設けるようにしています。
家で厳しくしつけて、外に出ると認められるという社会のあり方が、いちばん子どもの自立につながる。
―不登校の子を持つ親は、子どもの自己肯定感を上げていくために、どのように接してあげればいいのでしょうか?

白井:講演会などで、子どもたちの自己肯定感を高めていくためには、褒めたり認めてあげたりすることが大切ですよという話をお伝えすると、「ああ、私、怒ってばかりでした……」って過剰に反省をされる親御さんもおられます。だけど、私は叱ることって、信頼関係のある親でしかできない、とても大事なことだと思うんです。

だから、家ではしっかりと厳しくしつけていただいて、外に出ると認められるという社会のあり方が、いちばん子どもの自立にもつながりますし、理想的だと思います。不登校の状態だと、そこが反対になりがちなんですね。

 

―親は過剰に褒めるけれど、学校では認められない。そういう話をよく耳にしますね。

白井:子どもに対して親が過剰に気を遣っていくと、ますます引きこもってしまうことにもつながります。私も、まだまだ3人の子育て中ですから、えらそうなことは何も言えませんけども(笑)。
その子ならではの武器を育てるためにも、いろんな世界の入口を見せられるように工夫しています。
―スマイルファクトリーでは、小学生から高校生までが1つの教室に集まって、朝夕のミーティングを開いているそうですね。昼休みなどもいろんな年齢の子が自然と一緒に過ごしていて。

白井:「できないことはお互いに助け合っていくんだよ」ということを教えるために、帰りのミーティングでお互いに感謝しているところを発言しあって、その日のMVPを発表しています。「何々をしてくれてありがとう」とか、ごくささいなことですよ。だけど、そうやってお互いに自己肯定感を高め合い、人のためにがんばることを一番大事にしているんです。

―どんなことでもいいから人のために。

白井:それは、決してきれいごとじゃないんです。結局、彼らもどこかで社会的に自立して生きていかなければいけなくて、誰かに役に立つことで対価を得られるわけだから。互いに助け合う、人のために何かをするというのは、ものすごくリアルな話なんですよ。そのうえで、その子ならではの武器をどう育てるのか。そのためにも体験授業の時間を作って、いろんな世界の入口を見せられるように工夫しています。

 

ミニ保育実習、ヨット体験、コンビニ実習、梅シロップ作りなど体験授業の幅は広い
―漁協の方が来られてブリを丸ごとさばくなど、さまざまな体験授業も行われているそうですね。

白井:うれしいことに、地域やいろんなボランティアの方のご協力を得て、そうした授業が増えていますけど、まだまだ私たちとしても足りていないところがたくさんあります。どこかで機会損失のあった子たちだからこそ、うんと豊かな教育環境で育ててあげないと追いつかないと思っているので、さらに環境は充実させていきたいですね。

 

不登校を問題行動だと思い込むことでは何も解決しません。少し視野を広げてみれば、不登校だからこそ新たに学べることがあるとも言えます。子どもがみんなと同じレールから外れたとしても、家族や周囲の人たちの適切なアプローチと支えがあれば、子どもの人生は豊かなものになる。白井智子さんのお話は、「不登校」で立ち止まるのではなく、その先のことまで改めて教えてくれました。

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