最近、働き方改革の一環として「副業」を容認する企業が増えています。特に2018年は「副業元年」と呼ばれ、これまで副業・兼業を認めてこなかった老舗企業までもが、本業以外に仕事を持つことを推奨し始めています。

企業が副業解禁へと舵を切る背景には、どのような理由があるのでしょうか? また、会社員が副業を始めるにあたって注意すべき点や、乗り越えるべき課題はあるのでしょうか?

今回は、会社員時代に副業を経験し、現在は複業研究家として活動する西村創一朗さんと、小説家と会社員という二足の草鞋を履く松本清張賞受賞作家・川越宗一さんにリアルな副業事情をインタビューしました。

取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 撮影:有坂 政晴(STUH)

プロフィール

西村 創一朗(にしむら そういちろう)
複業研究家、HRマーケター。HARES代表取締役 / ランサーズ株式会社 タレント社員。NPO法人ファザーリングジャパン理事。3児の父。

川越 宗一(かわごえ そういち)
大阪府生まれ。バンド活動を経て、現在はカタログ通販企業勤務。2018年6月、『天地に燦たり』が「第25回松本清張賞」を受賞。

優秀な人材ほど、副業OKの会社を選んでいる

まずは、複業研究家の西村創一朗さんに、副業が広まっている背景や、副業を解禁する企業の本音などをうかがいました。また、西村さんは副業をするうえで注意すべき「五か条」を提唱しています。それによると、どうやら副業はメリットばかりではないようで……。

——現在、副業を解禁する企業は実際に増えているのでしょうか?

西村:そうですね。特にここ2~3年で、副業解禁の機運は一気に高まっています。2015年から2018年までの4年間で、日本における副業OKの企業は14%から約30%にまで増えました。また、2018年1月には厚生労働省が定めるモデル就業規則が改定され、副業・兼業を認める内容が盛り込まれています。これにより、2018年は副業元年とも呼ばれましたよね。

同年7月には創業117年のロート製薬株式会社が初めて「副業兼業解禁」を打ち出したことで話題になりました。ほかにも、モデル就業規則の改定後から準備を進め、2019年4月から副業解禁に舵を切る企業も少なくありません。

西村 創一朗さん(複業研究家、HRマーケター)
西村 創一朗さん(複業研究家、HRマーケター)

——企業はなぜ、副業容認に舵を切り始めているのでしょうか?

西村:最も大きい理由は、人材確保のため。いまは優秀な人ほど副業OKの会社を選んでいます。新卒市場でも、たとえば学生時代から自身の会社を経営しているような人材は、就職後もその選択肢を持てるような企業を選んでいる。また、いま在籍中の社員が新しい仕事にチャレンジしたくなったときも、転職より副業でトライアル的に始められたほうがリスクは少ないですよね。

実際、前述のロート製薬のケースでは、メディアに大々的に取り上げられたこともあって、新卒採用の応募数がかなり伸びたそうです。副業解禁が企業のブランディングとなり、採用コストも大幅に下がったと聞いています。

また、副業をすることで得たスキルは本業に活かされることもある。副業を容認することは、社員一人ひとりのスキルアップにもつながるんです。

本業のスキルを使った副業は、利益相反には当たらない

——ただ、副業解禁といっても何でもかんでもOKというわけではありません。たとえば、自社の事業と競合するような副業は、原則として禁止されていることが多いですよね。

西村:はい。副業は「勤務先の企業の利益相反にならないこと」「機密情報の漏洩をしないこと」が前提です。ただ、だからといってそれまでに培ったスキルがまったく使えないということはないと思います。

たとえば、化粧品のマーケティングを本業としている人が書店のマーケティングを手伝うことは、業種が違うため利益相反には当たりません。むしろ、違う領域を経験することで新たな発想が得られ、本業にもフィードバックできるかもしれませんよね。

——具体的に、本業のスキルを生かした副業の成功事例を教えていただけますか?

西村:たくさんありますが、副業としてYouTuberをしている人の事例は面白いかもしれません。彼は総合商社で経理の仕事をしながらYouTubeでエクセルの技術を紹介する動画をアップしていました。いまではチャンネル登録数も3万人を超え、会社を辞めてYouTuberとして独立しています。

経理の仕事ではエクセルをよく使うので、生産性アップのために猛勉強したそうです。本業のために身につけたスキルが副業にも生かされた好例ではないでしょうか。

副業を始める前に、まずは「キャリアの棚卸し」をすること

——一方で、副業に対する会社員の関心はどのように変化しているのでしょうか?

西村:2018年に『エン転職』が行ったアンケートによれば、会社員の88%が副業に興味があると回答しています。しかし、そのなかで実際に副業を実践している人は32%に留まりました。

——なぜ、そうしたギャップが生まれるのでしょうか?

西村:そもそも、大半の日本企業が長いあいだ副業を禁止してきたため、多くの会社員は「副業のやり方がわからない」のだと思います。副業を続けていくためには、「会社の看板を外したときに自分に何ができるのか」「何をやりたいのか」「どうすれば誰かの役に立てるのか」、それらを言語化するには「キャリアの棚卸し」が欠かせません。

しかし、終身雇用的な働き方が根づく日本企業のビジネスパーソンは、そうしたキャリアの棚卸しが習慣化されていません。それゆえに、なかなか踏み出せないのが現状なのではないでしょうか。

——西村さんご自身も会社員時代は副業をされていたということですが、どうやって「自分ができること」を見つけましたか?

西村:ぼく自身はもともと株式会社リクルートキャリアに新卒で入社し、営業に配属されました。事業開発に携わりたいという気持ちもあったのですが、部署を異動するには時間がかかりそうだったので、まずは営業として成果を出し、副業でやりたいことにチャレンジしようと考えたんです。

まずは、「ストレングスファインダー®」というツールを使って自分の強みを分析しました。すると自分は、情報を集め、それを編集して発信することが得意だとわかった。そこで、インターネット業界の最新情報を解説するようなブログを書き始めたら、やがてPVも増え、少しずつ収入も得られるようになっていきました。また、収入以上に嬉しかったのは、本業だけでは得られなかったような人脈が広がっていったことです。

——人脈が広がったことでどのような変化がありましたか?

西村:ブログをきっかけに、社内の事業開発の担当役員と懇意になり、新規事業開発に特化した部門を立ち上げる際に声をかけていただきました。つまり、副業をきっかけに、キャリアシフトが叶ったわけです。また、副業だけで本業と同じくらいの収入を得られるようになったことで、独立という選択肢が見えてきたのも良かったですね。

副業を行う際に意識すべき「五か条」とは?

——副業を始めるにあたり、ほかに注意すべき点はありますか?

西村:ぼくは「複業家に贈る五か条」として、「1.先議公利」「2.本業専念」「3.公明正大」「4.自己管理」「5.他者配慮」を掲げています。

1の「先義公利」は大阪商人の考え方で、「まず考えるべきは儀であり、儲けはあとからついてくる」というもの。自分がどれだけ世の中に価値を発揮できるか、まずはそこをしっかり考えるべき、ということです。

2の「本業専念」は文字どおり、副業をやるならまず本業を頑張りましょうということ。副業のせいで本業がいまいちだといわれないよう、むしろ本業にもいい影響が出るような状況を目指す必要があります。3と5も言葉どおりの意味ですね。

五か条のなかでも特に重要なのが4の「自己管理」です。言い換えると「健康第一」ですね。副業でいっぱいいっぱいになり、身体を壊してしまったら本末転倒ですから。じつはぼく自身も会社員時代は自己管理がうまくいかず、痛い目を見ています。

——どんな状況だったのでしょうか?

西村:副業に夢中になりすぎたためにリフレッシュの時間をまったく持てず、心身ともに無理が生じてしまいました。ぼくの場合は子どもが3人いて家事育児もしていたため、休養の時間も含めたタイムマネジメントがより重要だったのですが、当時はそこがおろそかになっていましたね。ちゃんと食べて、ちゃんと寝ること。特に、睡眠時間を削っての副業は絶対にNGです。

そのうえで無理なく副業を続けていけば、必然的にセルフマネージメントの能力は上がります。副業という負荷をかけながら本業に取り組むことで、残業ありきではなく時間内に仕事を終わらせる力が身についていくでしょう。

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